沖野俊太郎自ら、先日発売になったリミックス・アルバム『Too Far』(F-A-R Remixes)に参加していただいたリミキサーの方々にインタビューしてみようじゃないの? 沖野にしか聞けない事もあるんじゃないの? と云う企画の第二弾。
沖野linnくんって”ビートメイカー”って自分のこと言ってるけどそれってそういうジャンルがあるってことで良い?私はなんですか?って聞かれたら”ビートメイカーです”って言うのかな?
Moriはい、多分そう言うのが相手にとってわかりやすいかと。
沖野それって世界的に?共通言語として?
Moriそうですね、でもいろいろあるんですよね。呼び方も。
沖野たまたまSoundcloudでlinnくん見つけてタグが”Beat”ってなっててね。で、”Beat”で検索してったらかっこいいのがどんどん出てきて。
Moriありがとうございます。
沖野それってやっぱまずビートありきみたいな意味合いもあったりするの?
Moriそうですねぇ、ジャンルとしての”Beat”ってのがあってビート系って呼ばれるんですけどアメリカだと例えば”Beat”とか”Beats”っていうタグで。それで*J・ディラっていうビートメイカーがいてビートに*クオンタイズかけないでヨレてるんです。その手打ちによるヨレっていうのがどこかでちょっと早くなったり、でもループとしての尺はあっているのでそのループの中でのヨレをJ・ディラからとって”ディル・ビート”っていうんですよね。
沖野そのヨレの美学みたいな?
Mori正にそうですね。
沖野今回リミックスしてくれた「Swayed」も絶妙のヨレだな とは思ってたけど。あれもノー・クオンタイズで手打ちなんだ?
Moriはい。midiでもいじりますけど、とにかくきっちりしないってことですね。そこでクオンタイズかけちゃうとヒップホップになっちゃうので。
沖野そっかー。じゃあlinnくんはそこの住人(ビート界)ってことでいいんだね。紹介するとしたら。
Moriそうですね。そんなに厳密ではないですけど。
沖野ビート系ですごい売れてる人とかいるの?
Moriうーん、ビート系っていうと「そうなのかな?」っていう人もいるかもなんですが、Flying Lotusとか。一応まぁ、マーリー・マール、ピート・ロック、J・ディラ、フライング・ロータス みたいな系譜もあるので。その中に一応いるとは思うんです。
沖野へー、フライング・ロータスもそうなんだー。じゃあビート系ってジャジーも必須な感じ?
Mori今だとディスコ系のサンプルとか、逆にR&Bそのもの使っちゃったりとかもあるので特に決まりはないというか。
沖野linnくんはやっぱジャズ好きなの?
Mori6、70年代のスピリチュアルジャズが好きです。
沖野スピリチュアル・ジャズってどのあたりの?コルトレーンとかしか知らないけど。
Moriコルトレーンが神様なんですけど、好きなのはその後追いの人たちで。コルトレーンの意思は継いでいる、でもジョン・コルトレーンから脱却しなきゃいけないっていう人たちで。ベトナム戦争が終わって公民権運動が始まり、荒廃してる中でBlue Noteが出てきて、Blue Noteが市場を全部買い占めて。でもBlue Noteは白人のレーベルだから黒人主権じゃないよね っていう動きになって。で公民権運動にも触発されてもうインディペントに黒人でやろうっていうレーベルが乱立していって。その中の技術と黒人の精神性みたいのがものすごい高まり合っていったのがスピリチュアル・ジャズみたいなものかと。
沖野スピリチュアル・ジャズの中でlinnくんのおすすめってある?
Moriうーん、あ、ヒース・ブラザーズってバンドがあってムビラ(カリンバ)、チェロ、コントラバスとピアノみたいなちょっと室内楽っぽいんですけどゴリゴリのモードっぽかったりとか。インプロがどう とかってよりはテーマとアレンジが巧いのが良いですね。
INDIANSUMMER島村すごい掘ってるよね。
Moriいや、自分まだまだ浅い方です。友達とかもっとえげつないです。
沖野ほんとー?でやっぱりその時代的な背景もlinnくんの中では重要なの?そこにあるストーリーを想像しつつ聴いたり。
Moriあーそうですね、映像作品でもたまに見れたりするので。あの時代に疎外されて排他的な社会をどう独立していくのか?その精神性ってすごいなぁって思ったり。
沖野それを音に感じる?
Moriそうですねぇ。スピリチュアル・ジャズはすごい面白いですね。
沖野なるほど。じゃあ今、最近1番聴く音楽って何?
Mori色々聴くんですけど現行のジャズとかも好きですね。
INDIANSUMMER島村ロバート・グラスパーとか?
Moriそうですね、ロバート・グラスパー一派というか今やってるBlue Noteらへんとか面白いですね。
沖野面白いんだ?
Moriみんなヒップホップも通ってるし、さっき言ったディル・ビートも理解してるので。もうドラムもディル・ビートで打ち込み みたいなところからいってるので。
沖野全然知らないんだよね・・その辺。
INDIANSUMMER島村沖野さん多分ロバート・グラスパー好きだと思いますよ。
沖野ハイエイタス・カイヨーテとかもそうなの?
Moriあの人たちは系譜としてはネオソウルとかに近いかなっていう。でも例えばケンドリック・ラマーももうジャズでいいじゃんみたいな流れが世界的にあるので。
沖野Soulも好きなんだよね?つまり黒人音楽全般がすごい好きなんだね。
Moriはい、全部好きですね。ブルースもバディ・ガイが来日した時見にいったりしましたね。富士山の麓でやったんですけどWowWowか何かの録画で自分写ってて・・・バディ・ガイで盛り上がってる中学生みたいな。(笑)
沖野写っちゃったんだ。(笑)その時中学生かぁ。
Moriはい。
沖野しかし音楽がすごい好きなんだねぇ。
Moriはぁー、自分で言うのも変なんですけどそんなに好きじゃないんです。(笑)
沖野えっ!?そうなの??
Moriあんまり・・昔から苦手で。音楽の授業もほんとダメでしたね。
沖野え・・そうなのか。でもlinnくんって一体なにもの?って聞かれたら「ビートメーカーです」って答えるでしょ?
Moriあー、でも自分としてはあんまりビートメイカーって名乗りたくない・・。音もサンプリングしかやりません、っていうのは嫌で、今はアルバムももう色々作っていて
沖野もう作ってあるんだ?
Moriはい、何個かあるんで。で、少しずつ変わっていきたいなってのがあるので自分のことをあまり限定したくないんです。
沖野常に違うものを提示していきたい?
Moriそうですね。色々できるようになりたい。
沖野アートっていう意識はある?アーティストっていうか表現者として何か表現したいとか?
Moriあー、表現したいことは特にないっていうか。
沖野えー、そうなんだ。割と音楽の背景も重要なタイプなのにね。でもlinnくんのアルバム『Invisible Vision』は北斎の富嶽三十六景を題材にしてたりするじゃ
Moriはい。
沖野俺は割と年々、欧米より日本美術が好きになってね。だから気になったんだけど特に日本美術に傾倒した ってわけじゃない?
Mori一応本とか朦朧体とかもいろいろ見たりしたんですけど。で北斎の「阿弥陀ヶ瀧」っていう作品を見て滝が鏡みたいでなんだこれ!?ってなって。いろんなパースペクティヴが一つになっているので面白いなぁって。
沖野それを音で表現したかった?
Moriそうですね。
沖野実は俺もそういうこと考えてた時期があって。尾形光琳とか俵屋宗達とか好きで。あの人たちの絵って
Moriサンプリングみたいですよね?
沖野そうそう、グラフィックデザインっていうか、何百年も前にアンディー・ウォーホールみたいなことやってて。平面的なんだけどすごく奥行きがあって宇宙があって。この構図を音にしたいって思ったとこで止まってるけどね。(笑)
Moriわかります。難しいですよね