沖野俊太郎 インタビュー
Shuntaro Okino Interview

沖野俊太郎がソロとしては15年振りとなるアルバムを発売する。彼はヴィーナス・ペーターのボーカルとしてデビューしてから25年、これまでインディアン・ロープ、オーシャンそしてソロと様々なスタイルで時代ごとに数々の名曲を作ってきた。しかし残念なことにそれが多くの人に届いたとは言い難い。そこには本人の未熟さや、彼自身が抱えた問題による周囲との齟齬だけでなく、様々な誤解や行き違いも含め多くの理由があっただろう。そういう僕自身も何度か彼ときついやりとりをしたことがある。
今回こうしてインタビューというかたちで彼と話すことになったのは、僕がいまライブハウスを中心に活動している20代のバンドやレーベルなどをやっている若者たちと知り合ったことが大きなきっかけとなっている。
その姿はかつての自分たち、つまり1991年にワンダー・リリースを始めた頃の自分であったり、『ラブマリーン』を出した頃のヴィーナス・ペーターのような若者たちだった。
なかでも栃木を中心に活動しているCAR10がヴィーナス・ペーターに大きく反応してくれたことで、ひさしぶりに沖野くんに連絡をとることになった。その時にアルバムをレコーディングしていることを聞き、スタジオに彼を訪ねた。そこで聴くことができたほんの数曲から、これまでとは違う感触があった、と同時に彼の表情からもなにか変化があったことを感じることができた。
その後完成したアルバムを聴くことではっきりと彼自身がなにかを乗り越えたように思えた。

このインタビューはレーベル「インディアン・サマー」からの依頼で実現したものだが、いちファンとして話を聞くつもりが古くからの友人として、まるで対談のようなものになってしまった。その点はご容赦願いたい、その代わりに普通のインタビューでは聞くことのできないリアルな発言で構成されているはずだ。実際にはこの倍ぐらいの会話があったのだけれどそれはまた別の機会に。

与田太郎
https://twitter.com/YODATARO
https://www.facebook.com/taro.yoda.3

俺、本当はすごくポジティブな人間なの。実は。子供の頃から。まっすぐだったし。そんなイメージないんだけど。
パブリックイメージ、それは色々屈折しちゃった事があって、そういう風にしか出来なかった。って感じなんだよ。
だからやっと最近、本来の自分でいられるとは思ってる。

与田(以下Y)
最近20代でバンドやレーベルやってる子達とよく話すんだけど、みんなよく音楽掘ってるんだよ。なんかここ10年ぐらい10代や20代が洋楽聴かないイメージあったし。実際本当にJ・POPとの落差も大きかったし。
沖野(以下O)
90年代ぐらいのものを聴いてるの?
Y
80年代ぐらいから90年代だね。
O
マンチェとかも?
Y
ローゼズはみんな好きだけど、マンデーズの『ならず者』とかはいきなり聴いても意味わんかんないんじゃないかな。
O
そう?
Y
今の子たちはね。ストーンローゼスはOKだけど。
この沖野くんのアルバムは、そういう意味でいいタイミングでリリースになるんじゃないかなって思う。若い人達がまた自分で音楽探しはじめてるし。
今回のアルバム良かったです。じっくり聴いておもったのが、沖野くんのキャリアで初めてポジティブさが前面に出てるアルバムだと。とての伸びやかだし、リラックスしているようにも聴こえた。
何か自分の中で変わった?
O
そうだね、まあやっぱりオレがものすごい変わったんだよね。
Y
開けっぴろげと言っていいくらい、ポジティブな感じだった。しかもアルバム全体でね。っていうのはヴィーナス・ペーターも含めあんまりなかったよね。ほとんどなかったね。まして今まではちょっとした欠落とか喪失感が常にどっかに漂ってて。良い曲多いんだけど、何かが失われた感じがテーマになってたような気がするんだけど。もしくは届かない感じと言うか。今回はそういう印象はまったくなかった。
まずはそのあたりの理由みたいなものを聞かせて欲しいんだけど。
O
…こうやって改まって、、ってなると。そこまでそういう風にポジティブな感じって言われたの初めてだから。今回。
Y
そう?
O
まだ初インタビューみたいなもんだから。そういうつもりも無かったけど自然にそうなってるのかも。
Y
そうだね。しかも無理矢理な感じはない。勿論ヴィーナス・ペーターから長く沖野くんの音楽を聴いてる人たちは確実に思うじゃないかな、オレと同じような事を。それがなんなのか、まずは聞いてみたい。
O
むずかしいな。どこまで話すべきなのかってのがあるじゃない。 やっぱりこの15年すごいいろんな事あったから。 ホントそれが、、、なんて言ったらい良いか、、、うまく説明出来ないけどね。
Y
でも作ってて楽しかったんじゃない?そういう感じがすごい伝わってきた。
O
一番大きいのが、ここ2年ぐらいでやっと最近普通に暮らせるようになったというか。それまではやっぱり常にいろいろ問題があって、ずっと。もうヴィーナス・ペーターの時からずーっと常に満たされないというか、常に。 半分楽しいけど半分辛いみたいな、ずっと人生だったから。
Y
悩みが途切れる事が無い?
O
なかった。常に。
Y
今回、沖野俊太郎っていう名義で出そうと思ったのはなにか理由がある?
O
いやいや何にも無い。だって沖野俊太郎でしかないじゃん。
Y
例えばユニット名義みたいな選択肢もあったと思うけど?
O
だからそういう事なんにも考えなかったというか、必要ないというか。そこに関しては、どうしますって言われたから、沖野俊太郎で良いですって。そこに別に意味は無いというか。
Y
今までの流れをいちファンとして聴いてると全体の流れを知ってるから深読みしちゃうんだよね。ついに、、、ついにってわけではないか、一度出してるか。でもここで自分の名前で出るっていう事は何かふっきれたのかな、理由があるのかなって思うんだけど、ごく自然に出てきた?
O
でもアニメも大きかったよ、2003年の『ラスト・エグザイル』と2005年の『ガンxソード』、あれは” Shuntaro Okino “で出してるから。あれが割と浸透してるっていうのももちろんで。ヴィーナス・ペーター以外のところで。
Y
そうか、アニメは本当に強いからね。全然音楽聴かない人が、すごい良かったですとかいっぱいあったでしょ?
O
あとは外国でけっこう、外国人からすごい。
Y
主題歌そのまま使われてるんだ?
O
沖野俊太郎 Facebookページの「いいね!」の半分以上が外国人。あっちの人は良ければアプローチしてくるじゃん?日本だとこの人誰だろう?ってなるけど。
Y
それおもしろいね。
O
まあ、あれがあったからなんとなく今でもやれてるのかなと思ってる。
Y
そ 2003年?
O
2003年と2005年。アニメは2回テーマ・ソングをやらせてもらって。それでも10年以上たってる。再結成したのが2005年で、『クリスタルライズド』が2007年だもんね。あれから10年近くたつのかー。
Y
そう、そうなんだよ。クリスタルライズドからは10年近い。そうだよね。なるほどね。じゃあ多分そんなにこのアルバムの構成も意識して作ってないかも知れないんだけど、俺が聴いた時、まず「サンデー・モーニング」から始まるじゃない?それから、間に例えば「ロック・ザ・カスバ」的なテイストとか、初期のデヴィッド・ボウイや、もちろんビートルズ、あとヴィーナス・ペーターっぽさも含め、沖野君が聴いてきた音楽の歴史のエッセンスがいろんな所にでてくるじゃない?それも別に意識してやったわけじゃない?
O
なにも意識してない。この15年間こつこつやってた作業、それが何十曲もある。
Y
まだ氷山の一角?
O
そうそう、そうなんだよ。今回アルバム作れることになったから、その中から選んでミックスしてもらったり、自分でもう一回ちょっと、とか。アルバムとしてまとまるかなみたいな感じで選んだだけだから。
Y
俺は沖野くんとまったく同い年生まれで世代も一緒だし、多分聴いてきたたものが同じだから。67年に生まれて、ぎりぎりクラッシュ、ジャムが現役のところに滑り込んでからロックンロール・ライフが始まるじゃない。
高校生くらいでもうドアーズとかヴェルヴェット・アンダーグラウンドとかチェックしてきいたりするでしょ。それからローゼスがやってきてプライマルがやってきてみたいな流れがまったく一緒だから、感慨深いんだよね。
だから自分にとっての原点は多分パンクの後半だし、ほんとにいつも振り返ってしまうのは60年代の音楽だったりするんだけど。
それからリアルタイムで追っかけてきたものや聴いてきたもの、それがロックだけじゃなくてダンスビートも含め、他人事とは思えない。
O
それはすごくうれしい言葉というか。
Y
自分の中で衝撃受けた順序みたいなものを、どういう音楽にどう出会って来たかを聞かせてもらえると。
O
俺は小学生のときは歌謡曲で、原田真二に夢中で。それで中1でビートルズ。
Y
ビートルズが中1なんだ。
O
けっこう遅いんだよ。
Y
いや、早くない?
O
早い?いやいや。早い子は兄貴が聴いてたとかさ。 中1ですぐバンド初めて、ビートルズ、ストーンズ、平行してジャム、クラッシュ、ピストルズってなっちゃう。クラッシュが一番好きだったかな。ミック・ジョーンズの感じが特に好きだった。高校はもうその継続だよね。ずっと。だから俺あんまり追求しないというか、それが自然だと思ってた。
与田さんはどうやって情報集めてた?
Y
はじめはラジオ。サウンドストリート、それからロッキンオンでしょ。でも高校に入ったら新宿の輸入盤ショップに行ってた、だからちょうどスミスがデビューした時に「ディス・チャーミング・マン」がUKエジソン*の壁一面にならんでて、これなんだろうって。
O
あのへんいってたんだ。俺はね、池袋の西武の輸入盤屋しか知らなくて。えーと、なんだっけ、ディスクインじゃなくて、ディスクポート!せいぜい池袋までしか行かなかった。
Y
新宿まで行かなかったんだ?
O
いや、知らなかったから。その西口とかあの辺のレコード屋。
Y
そうか、雑誌読んでなかったって事?
O
そう、読まなかった。俺あんまり今もだけど、いわゆるオタク気質がないのよ。だって十分満足しちゃってたから。ビートルズとかクラッシュとかで。雑誌に関しては音楽雑誌よりオリーブとかマーガレットとか読んでた。
Y
そうか、だとすると高校生の時、普通に洋楽好きはバニーメンとかU2、スミスやアズテック・カメラとか、まあニューオーダーやデペッシュ・モードとか新しいバンドはそんなに聴かなかった?
O
そういうのは無いんだよ。
Y
ニューウェーブは聴いてないんだ?
O
そっち系っていったらボッパーズMTV、テレビとかで。雑誌読んでないから高校の時とかバニーメンとか聴いてないもん。
Y
そうなんだ。
O
うん。クラッシュと、あとニューロマ。MTV世代というか、ああいうのを普通にすきで。でもやっぱりイギリス系が好きだったけど。
そういうポップさもあるんじゃないのかなと思ってる、自分のなかで。
Y
なるほど、言われてみればそうだね。
O
普通よりちょっと音楽詳しいくらいの子だったからもうね、自分が作り出しちゃったから。中1からすぐ。割と、今もそうだけど聴くより作ったりする方が好きなんだよね。って今となっては思うけど。オリジナル曲をもう中学からやってたから。そっちに夢中だった。もちろん聴いてたけどね、すごい。同じレコードをひたすら聴いてたよね。
Y
それはおれもそうだよね。だってレコード高かったから。貸しレコードとかにろくなもん無かった、自分の聴きたいものそんな無かったし。
O
だから小山田くんの影響がやっぱ大きい。彼と出会ってクリエイションとかチェリーレッドとかね、いわゆるUKインディーズを知ったんだよね。
Y
小山田くんと初めてあったのは?
O
19の時かな。ニューヨーク行く前だから、86か7年。さすがにバニーメンとかは聴いてたけどね、高校出るくらい、文化服装時代にちょっと。でもせいぜいエヴリシング・バット・ザ・ガールとか、バニーメンとか。キュアーは知らなかった。
Y
そう、意外だねー。だけど情報源があんまり無いのに、一応はバッドザガールとかバニーメンにたどり着いてるのは?
O
彼女にねー、年上の彼女がいて、その子がディペッシュとか好きで。それでカセットもらって。その人はバニーメンとかアート・オブ・ノイズとか好きだった。
たしか準ミス文化だったかな?すごい美人でね。でもその娘にフラれて文化も辞めちゃったんだけど。笑
で、その頃はShout っていうモッズバンドもやっててやっぱり60年代ものばっかり聞いてた。
Y
なるほど、もう少しルーツを辿ってみたい。俺たちの世代って60年代に対する憧れそうとう強いじゃない?
O
うんうん、つよい。
Y
それは俺もそうなんだけど。実際に現場を知る事ができなかったから、想像力でたどり着こうとするんだけど。60年代のロックって全部良いから、やっぱはまっちゃうよね。
O
うん。結局70年代の音楽にはあんまりハマんなかったけどね。与田さんってニール・ヤングとかすごい好きでしょ?俺も好きだけど、それほど。
Y
わかる。沖野くんが作る70年代の音楽っぽい曲って、例えば『セカンドカミング』を聴いての感じとか、スピリチュアライズドを聴いてみたいなものを感じるんだよね。ストレートに70年代の音楽ではなく。
O
そうかもね。
Y
だから自分にとってオンタイムのものを聴いてきて、結果それが70年代っぽさにはなってるけど根本は60年代だよね。
O
だからね、最近改めてつくづく思うのは楽器を演奏することにあまり興味が無いというか。人によっては音楽って演奏するのが楽しみじゃない、プレイ。
そういうのにあんまり興味がない。70年代ってけっこうそういう時代じゃん?テクニカルなギターソロとか、ああいうのが苦手なんだよね。
Y
確かに。そっか、むしろ作曲なんだね。
O
作曲というか、3分くらいのポップソングが基本的にすごく好きで。サイケデリックで長い曲とかもまぁ好きなんだけど。ローゼズくらい?演奏もすごい好きなのは。
ローゼズは例えばジョン・スクワイヤーがギターソロ弾きまくっててもイヤじゃない、絶妙なセンス。
Y
あの時代のストーン・ローゼズでもプライマル・スクリームもそうだけど、多分彼等が目指したのは60年代の雰囲気だと思うんだよ。それを自分達なりにやりたかったというか。もちろんその前にパンクも当然あったんだけど。それで自分達でやればいいじゃんってマインドを受け継いでトライしたのが、実際自分達の生まれる前の、もしくは生まれた頃の、イギリスが最も輝いてた時代の音楽をやりたかったんだと思うんだよね。
高校時代くらいまで、そんなに熱心に追っかけた訳じゃなくてその後プライマル・スクリームやストーン・ローゼズに出会ってしまった瞬間っていうのは?
O
海外だよね。ニューヨークでいつもイギリス系の音楽流れてるラジオ聴いてて、ローゼズの「シー・バングス・ザ・ドラム」に衝撃うけて。すぐCD買いに行ってアルバム丸ごとこれは最高だって!思って。
Y
その後ロンドンにいったんだ?ロンドンに移ったのは90年?まだ89年?
O
89年。
Y
そっか。じゃあフールズゴールドが出るちょい前くらい?
O
まだ出てなかった。
Y
俺が初めてロンドンに行ったのが、89年の12月フールズゴールドが出たばっかりで。
O
あ、そう。じゃあ俺のいた頃かな?
Y
その当時ライブとか見に行ってた?
O
行ってた行ってた。ローゼズももちろん見たし。
Y
イギリスでストーン・ローゼズ見たんだ!
O
見てるよ。
Y
場所は?
O
それがさ、なんかとにかくすごい遠くまで行ったんだよ、島みたいな。それがどこだったかわからないんだよね。
Y
えっ?スパイク・アイランドじゃないよね?
O
スパイク・アイランドなのか覚えてない、わかんないんだよそれが。
Y
その時他にでてたバンド覚えてない?
O
いや、ローゼスしか見てない。あっちにネイティブな友達とかいなかったから、全部さぐりさぐりだったから。
Y
インターネットなかったしね。
O
そう、誰もまだ周りの日本人は知らなくて。
Y
そうだよね。89年でもロンドンではそんなに知られてなかったらしいね。
O
でもみんなスカリーズの格好しだしてて、えーこれどこで買えんのかなって。ちょっとダサいというか、、わかんなかったんだよね。
Y
でっかい場所だった?ライブ会場?
O
とにかくすごい広い所だった。
Y
屋根のある会場?
O
屋根はあった。
Y
じゃあ、それブラックプールじゃないかな?
O
ブラックプールだよね、多分、今思えば。野外じゃないし。
Y
多分その時のライブが評判になってようやく、イギリスの南部というかそっちの方もストーンローゼスがすごいって話になって。
とにかく遠くまで行った、ローゼス見に。他にはどんなバンド見た?
O
マイブラも見てたし、その時期はめちゃめちゃ見てた。カムデンのちっちゃいクラブにいつも見に行ってて、NMEチェックして見ていってた、単純に。
Y
マイブラはまだ『イズント・エニシング』だもんね。
O
マイブラはニューヨークにいる頃に、30人くらいで、あ、てかハッピー・マンデーズ見てるし、ニューヨークで。
そうだ、まずはニューヨークで見てんだよ。
Y
ニューヨークの会場はどこ?
O
CBGB。
Y
CBGBでやってたの?
O
CBGBでマンデーズ見てこれまた衝撃うけて。マイブラは会場忘れたけど30人くらいしかいなかった、客。
Y
ほんと?ロンドンでは?
O
ロンドンではギター・ポップのバンドをちっちゃいとこで見てた。
Y
そういうシーンが膨らんだ時期だ。で日本に帰って来るのは90年?翌年?
O
うん。いつ頃かな、半年しかロンドンいなかったからね。
Y
じゃあ夏くらいには戻ってきて、んでヴィーナス・ペーターが始まるんだよね、90年暮れくらい?
O
うん、すぐ。連絡来て。
Y
そっから先は俺も良く知ってる。今までの自分のリリースしてきたアルバムの中で、ヴィーナス・ペーターも含め、自分の中で気に入ってるものってあったりする?
O
いや、いつも後から、うーんあそこが、ってなるんだけど。やっぱ今となっては全部好きだよ。まあソロの『ホールド・スティル・キープ・ゴーイング』とかはちょっと…。
Y
ヴィーナス・ペーターが解散して試行錯誤した時代だよね。
O
そうそう。大分勘違いしてたよ。若いときの恥ずかしい部分というか。
Y
だから今回のアルバムの中には素直に自分がこういうものが好きです、こういう事ががやりたいんだっていうのがちゃんと並んでる感じだよね。そういう意味では完成度が高い。
O
完璧に自分独りでやってたから。レコード会社にいると、色んな人が入ってくるじゃない。その人達のどっかで期待にちょっと応えたいとかさ、やっぱなんとなくあんのよ、結局あの曲良いねーとか言われると。今回は自分で自主で出すつもりで作ってたから。自主というか完成したらどっかのレーベルに持っていこうとは思ってたけど。とにかくまず自分で終わらせようと。
それがなかなか、締切がないから、それでこんな時間たっちゃって。
Y
今回歌詞は曲と同時にできてる感じ?
O
いや全然。歌詞が全部だいたい新しいというか、曲はもう10年以上前の曲とかもあるし。詞はここ5年くらい。5年はないな、3、4年くらいの間。
Y
じゃあ一番最後にできてきてる?
O
そう。
Y
例えば1曲目の声はパワーとかの歌詞でも2、3年前にできてるんだ?
O
あれはもう2年くらいたってるかな。
Y
なんかもっと最近できたのと思ってた。すごく当たり前のことが素晴らしいんだっていうような歌詞が沖野くんの中に今までなかったし。大人になったのかな?
O
そうだね。簡単に言えば。でもやっぱ、震災とかも大きいと思う。皆そうだと思うけど、あれ以降。アーティストとか表現する人は。
Y
震災の後は俺もほとんど3ヶ月くらいなんにも考えられない感じだったけど、沖野くんもそう?
O
おれは逆にすごい怒り狂ってたというか、なんていうんだろう。
Y
ひどい事がおきてるっていう感覚?
O
とは思ってて、今とは全然違うんだけど、当時。この3年でもすげーかわってるの俺の方向性も。あと自分に子供ができたってことが大きいとおもう。
Y
気持ちのありようというか?
O
そうだね。でも政治的な話はしたくない。別のやり方で伝えたいんだよね。そういうことはね。変わったけど歌詞は変えないで済んだ。あ、これは全然自分としても考え方としても問題無かったし。俺、本当はすごくポジティブな人間なの。実は。子供の頃から。まっすぐだったし。そんなイメージないんだけど。パブリックイメージ、それは色々屈折しちゃった事があって、そういう風にしか出来なかった。って感じなんだよ。だからやっと最近、本来の自分でいられるとは思ってる。
Y
そういう感覚はすごい伝わってきたけどね。何か一山超えた、っていう言い方がいいかわからないけど。
O
まあ散々痛い目にあって、色んな事で痛い目にあって反省したというか。反省もあるよ。
Y
ちょっと全体の流れに戻って、ヴィーナス・ペーターが始まって、でもホントに短かったじゃない?
実際、マッドチェスター、インディー・ダンスがイギリスで盛り上がったの1年くらいだから。
O
うん、短かった。
Y
ヴィーナス・ペーターはある意味ピュアに求めすぎたが故に自分達のいる場所に耐えきれなくなって終わったような感覚があるんだけど、94年で解散してからはどういう流れがあったの?
O
やっぱりテクノ、トランス。レイブ時代があるじゃない。あれがすごく大きかったよね。
Y
あの時代のパーティー・カルチャーが俺の中でもそうとう大きな意味を占めてる。ずっと現場にいて20年くらいでしょ?そのシーンもEDMとかが出てきた事も含め、全然音楽として楽しめなくなった時に、やっぱり自分が聴いてきたロックだったりに帰っていくんだけど。
その時にちょうど今回の沖野くんのアルバムが完成して、いいと思った。ダンス・ビートももちろん入ってるけど、60年代の感じもあるし、もちろんパンクの感じもあるし。俺が好きだったヴィーナス・ペーターってこういう感じだったってみたいな曲ももちろんある。ほんと同じ世代には聴いて欲しいとは思うよ。
O
まあだから結局生き残った曲というか、今回の曲は。この15年の中で。生き残ったのが、こういう曲だった。他にも色んな曲あるし、とにかく。もっとダンス・ビートとかもインスト・アルバム出したいくらいあるし。でもやっぱ、とりあえずまず出すとしたら、これっていうのが残った。
Y
そういう意味では、俺たち90年代後半は踊りっぱなしだったわけじゃん。だから、アンダーワールド出てきた瞬間とか、そういう事も思い出せる流れがすごいなと思って。
O
あー、やっぱエッセンスには残ってるよね。すごく。トランスしていくものは好きなんだよね、ロックでもなんでも。それかメロディーか。
Y
でも2000年以降の感じも入ってるというか、ブルックリン周辺のテイストっていうか。
O
あの辺もそうだし、一応ピッチフォークとかネットでチェックして新譜とかもちゃんと聴いてるから。ずっと。
Y
この10年くらいの間ですごい好きだったアルバムなんかある?
O
アニマル・コレクティブの『メリーウェザー・ポスト・パビリオン』、あのアルバムはものすごい聴いた。
Y
イギリスのバンドはあんまり聴いてないの?
O
例えば?
Y
コールドプレイとか
O
コールドプレイはファーストしか。まあレディオヘッドとか普通に聴いてたよ、『キッド・エー』はだめだったけど『アムニージアック』は好き。
Y
例えばダンス・アルバムで、好きなアルバムはこれみたいなのある?
O
いっぱいあるよ、そりゃ。でもなんかね、最近忘れちゃった。
Y
例えばアンダーワールドのファーストとか、マッシブ・アタックのセカンドとか、そういう事だと思うんだけどね。多分今の20代にとっては90年代ですら、俺たちにとっての60年代と同じように伝説だから。
O
そうなんだよね、結局。ただなんか、俺が不安に思ってるのは今回のアルバムっていろんなものを昇華してるから、もうちょっと何かに特化してる方が若い人達にはわかりやすいのかなって。例えばアルバム全体でものすごくゴスとかパンクとか。
俺の好きなもの全部、今回わりと昇華できたなって感じはしてる。だから普通に聴こえんのかな、とか、どう聴こえるのかなっていうのはある。すごく普通にさらって聴かれちゃうのかなって。
Y
いろんなスタイルがあるけど、結局聴く人たちは沖野くんがやってきた事をふまえた上でまず入ってくると思うよ。その上で一本のガイドライン、線をひいてあげるとよりわかりやすいというか。
ビートルズ、ストーンズ、フー、キンクスがいて、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドとドアーズがいて、デヴィッド・ボウイとT.REXがいて、んでまあこっち側からニューヨーク・パンクが始まり、クラッシュとピストルズがいて、スミスがきて、ストーン・ローゼズがきて、アンダーワールドとケミカル・ブラザーズが出てきて。っていうそのライン。
O
本当にそのまんま。
Y
それって意外にみんな感じてる事だと思うんだよね。だから20代のいまインディー系というかロックが好きって思ってる子達はまあ大体入り口はパンクなんだけど、音楽好きは絶対必ず60年代に立ち返るし、そこから遡ってくるとスミスもローゼズも聴かざるを得ないし。で絶対アンダーワールド、ケミカルブラザーズも無視出来ないと思う。
だからそういうのをリアルタイムで辿ってきたっていう部分は伝えた方が良いと思う。
O
そうだよね。
Y
沖野くんが好きなのはポップ・ミュージックだけど、セルアウトしたものではなくて、自分達の工夫で作り上げてきたバンドばっかりでしょ。だからその中の自分の好きなアルバムこれですって喜ばれると思う。
昔だったらアルバムが20枚くらい並べられても、全部買って聴くのか、って思うけど、いまはYoutubeで聴けるからね。
O
聴けるからね。アルバムもね。
Y
例えば「サンデー・モーニング」聴いて、オープニングのリフってこれなんだーって思ったり、デビッドボウイの『スペース・オディティー』や『ジギー・スターダスト』とかをまるまる聴いたら、これいいね、って話になると思うんだよ。で、そこから沖野くんの曲にまた戻った時に受け入れやすいっていうか。
O
また新鮮に聴こえるかもね。
Y
「ラブ・シック」聴いて、「ロック・ザ・カスバ」を知ってるのと知らないとじゃ聴こえ方が違うと思うんだよね。そのセレクションを並べた時に、この人こういうのが好きなんだなって。でもそれって、クリエイティブなロックンロール、って言い方変かも知れないけど、そういうのばっかりでしょ。伝えるためのガイドラインをひいてあげる、それあったほうが良いと思う。
O
なるほどね。
Y
もちろん40代の人たちはわかると思うんだけど、そうじゃない20代が聴く機会があったら、わかってもらえると思う。
O
レーベルのスタッフ話だと、若い子は意外とこういうのは今までなかったみたいに言ってくれてるって。この楽曲で日本の詞って斬新ですね、って感覚。サウンド完全に洋楽なのに、っていうね。
Y
自分達の生まれてきた時代のものしか聴かないで育ってきてる子の方が実際多い。
O
ホントそうだよね。
Y
自分がかつてそうであったように、時代をさかのぼって発見して、より好きになっていくでしょ音楽って。俺の周りのバンドやる若い子達はわりとそういう感じで。かつての自分たちのように。
やっぱりCAR10とかにヴィーナス・ペーターとか聴かせると、20年以上前にこんな事、日本でやってた人いるんですかって話になる。そこは入り口としてすごい大きくて。今回のアルバムを聴いた時にもっとこの人の事を知りたいと思うっていうきっかけにはなると思うし。
O
でもだから、遅れてるよね日本は。今やっと出てきたじゃん、やっと。いろいろ。これは邦楽じゃないな、っていう子達が。
Y
ヴィーナス・ペーターはほんとに孤立無援だったよね。
O
だからぽっかり抜けてるよね。20年。渋谷系って言われたけど、実は全然渋谷系じゃなかったしね。あのカテゴリーはシティー・ポップ的な感覚に近い。ああいうのは日本人が得意なんだとは思う。そういう意味ではヴィーナス・ペーターは散々いじめられた。なんで英語で歌ってんの、とかって。いまは当たり前のようにみんな歌ってるじゃん。
Y
そうだよね。
O
でもおれは逆に今度日本語でやってる。当時はなんでこんなに非難されるんだろうって思ってたよ。だって当たり前のようにやってたから。全然。でも、まあバブルだったし、みんな浮かれてた。
Y
本当に音楽が好きな人がそんなにいなかったっていう事なんだろうね。ヴィーナス・ペーターはこのまえのシングルはもう1年前?
O
そうだね。
Y
あのシングルの3曲目の、「スペース・オディティー」みたいな曲あるでしょ。あれとかホントにすごいよかったんだけど、もうやらないんだよね?しばらく。
O
ヴィーナス・ペーター?あれイシダくんの曲だしね。 部分的に沖野流コードに変えたりアレンジはしてるけど。
Y
あ!、そうなの?あれ沖野くんの曲じゃないんだ!
O
違うんだよ。あの曲すごいいいでしょ?イシダくんってね、てかヴィーナス・ペーターはみんなホントすごい、作曲センス。
Y
そうだよね。あれ、イシダさんの曲なんだ?イシダさんの曲と沖野くんホントに相性良いんだよね。そうだったんだ。すっかり沖野くんの曲だと思ってた。めちゃくちゃいい。ライブでは一度もやってないよね?
O
去年タワレコのインストアで演ったよ、確か。
Y
ライブは今回のアルバムからほぼ全部演奏出来る感じなってるの?
O
いや、まだ半分くらい。
Y
レコーディングのメンバーはどういう風に集めてたの?
O
プレクトラム知ってる?高田くんが副プロデューサーというか共同プロデューサーなんだけど、彼が人脈がすごい。ほぼ彼の人脈で。
それが大正解だった。みんな素晴らしかったよ。
Y
プレクトラムは90年代はポリスターからリリースしてたよね。ヴィーナス・ペーターの後の世代のギター・ポップだったよね。
O
いま聴くと凄くいいんだ。でも当時はダンス・ミュージックばかり聴いてたころだから知らなかったんだ。この前もGREAT3見に行ったんだけどさ、プレクトラムと一緒に出てたから。それでさ、GREAT3もおれ全然聴いてなくて、すげえかっこ良くてさ。当時はテクノやダンス・ミュージックばっかりだったから。
Y
俺も95年、6年はロック一切聴いてない。97年になってようやく「OK・コンピュター」とか「アーバン・ヒムズ」でまた聴き始めるけど。
O
2000年代与田さんはどんな感じだった?
Y
2000年くらいはもうダンス・ミュージック。イギリスのロック・バンドだとコールドプレイは3枚目までは好き。でもここ数年ではThe XXが一番良かった。それとアメリカのバンドではザ・ナショナル。
O
おれもThe XXはすごいハマった、特にファースト。聴くと、あーもう違う世代だなーっていうか、ジェネレーション・ギャップみたいな感じ。あと、日本人には出来ない感じがする。
日本のアーティストもすごい好きな人いるじゃん?与田さんもそういうとこあるよね。そういうの無い、おれは。
なんだかんだ言って皆実はBOOWYが好きだとか言うんだよ。
Y
俺はルースターズだけど。
O
当時聴いてれば好きになったかも知れないけど、知らなかった。
Y
洋楽と邦楽どっちも聴いてる身としては、例えばBOOWYとスミスは同時代だけど、どっちが好きかっていわれたらもちろんスミスだけどね。
でも沖野くん子供の頃歌謡曲好きだった訳じゃん?ヒットしてる流行ってるポップスっていう感覚で日本の音楽を聴き続けなかったんだよね?
沖野くんが好きな西城秀樹がオフコースの「眠れない夜」カバーしたじゃない?その時にオフコース聴いたりしなかった?
O
しなかった。与田さんはオフコースも好きだよね?なんだろうね、音楽に対して思い入れのある場所が違うというかね。
やぱりビートルズに出会ってから変わったと思う。やっぱり作曲というか、曲の方にすごくひかれるというか。 歌詞とかはあんまり昔から気にしてなかった。
Y
うまく時代の空気をまとめたポップ・ソングってあると思うんだけど、ヒットチャートに出なくても。はっぴぃえんどもそうだったし、フリッパーズの「ヘッド博士の世界塔」とかのあの世界観は俺たちの世代にとって他にいなかった感じもあると思うんだよね。
でもそういう風に聴いてなかったって事だよね。「ヘッド博士の世界塔」に入ってる「クイズマスター」は今聴いても歌詞がすごいなって思うもんね。
O
ずっと聴いてないな、ヘッド博士。今聴いてみたいな。小沢くんの歌詞ね。
そういえば小山田くんが今回のアルバムからリミックス1曲やってくれる予定なんだ。 リミックス・アルバムをつくろうかって思ってて。
Y
それ良さそうだね。小山田くんと一緒にやっていたヴィロードは短かい期間だったよね。
O
短い、1年くらい。ちょいちょい付き合いつつ。
Y
で沖野くんはニューヨークへ行き、小山田くんはロリポップ・ソニックからフリッパーズ。
O
俺がニューヨーク行ってる間にフリッパーズがデビューして、あれも大きかった。アルバム送ってきてくれて。 初めてちゃんと録音されたもの聴いたからすごいな!って思って、良く出来てたしね。
Y
俺もあんなスタイルの音楽を日本人が作れると思ってなかった。ちょうどホコ天とかイカ天ばっかりの時代だったから。
O
そうそう!その辺はおれ知らなかったんだけど。ちょうど海外行ってたから。 やっぱり影響うけたって言ったらフリッパーズ、日本でね。あとやっぱ初期オリジナルラヴ、当時大きかったかなと思う。 やっぱオレも変なコードとか好きだから、当時のライブとかすごかったよ。
Y
話をアルバムに戻すけど、今回はミュージシャン沖野俊太郎として何かふっきれた印象があって、期待感も含めこれまでとは違った活動がスタートしそうに思えたんだけど、自分ではどう?
O
ふっきれたっていうか、なんだろう、プライドが無くなった、変な。音楽以外にプライドが無くなった。
Y
それ良い事だよね、それでわかる事多いでしょ。
O
「ウェルカム・トゥー・マイ・ワールド」が一番好きだって言ってくれたのは、それはどうして?
Y
一番ヴィーナス・ペーターを感じさせる曲だったから。俺にとってヴィーナス・ペーターはホントに特別なバンドなんだよね。
O
そうだね、ヴィナペ感あるもんね。
Y
そうそう。俺はある意味いちオーディエンスとしても、ラッキーなことに制作スタッフとしていろんな作品にかかわってこれたでしょ。やっぱりヴィーナス・ペーターの存在が特別なんだ。音楽的にもいろんな要素あるし、沖野くんの声と歌が好きだっていう事からスタートしてるし。同じ世代で、同じような音楽が好きだったていうこと、それにいっぱいある思い出も含めだけど。 だから俺にとっては「スウェイド」、「サマー・レイン」から「ウェルカム・トゥ・マイ・ワールド」までの3曲に凝縮されてる気がする。ロックの感じがね。
O
そうなんだ、「ウェルカム・トゥ・マイ・ワールド」と「サマー・レイン」が、オレの中でまだいけると思った2曲。あれが出来て日本語でこういう事表現出来るんだって。多分、日本語でがっかりした人も多いじゃん。おれが日本語でやってさ。
Y
『ビッグ・サッド・テーブル』のこと?
O
とかさ、多分その辺は今回クリア出来たというか。
Y
そうだね。なんの違和感も無かった。
O
これ良いけど、英語だったらもっとなーっていう感じじゃもう無いと思う。英語だったらなんか違っちゃうと思う。
Y
日本語、英語関係無しで全然普通に聴けたしね。オーシャンでやってたレコーディングされなかった曲ですごい良い曲があって。
O
どれだろう?けっこうあるんだよな。
Y
「アイ・メイ」ってオーシャンでやってた曲、YouTubeにライブがアップされてるんだけど、こういう曲をやって欲しいなって思ってたら、同じようなタッチで良い曲だと思ったのが「ウェルカム・トゥ・マイ・ワールド」。
O
あー、何となくわかった。あれはでも「m b v」、マイブラの最新作の影響ですぐ作った。あれすごい好きで。あれあんま好きじゃないの?
ケビンが「m b v」をあのタイミングで出したことが上手く言えないけど、自分ももうとにかくアウトプットしないと っていう背中を押してくれた感じなんだ。
意外かもしれないけど、俺「ラブレス」がそれほど好きじゃないんだよ。「イズント・エニシング」が好きで、次に好きなのが「m b v」。
ライドも初めのシングル3枚は好きで「ノーウエア」は持ってない。変わってるんだよね。よくわかんない自分の好み。
Y
え、じゃあ「ヴェイパー・トレイル」聴いてないってこと?
O
いや、もちろん知ってるけど与田さんみたいには好きじゃない。もちろん良いんだけど、当時のあれとしては残ってないんだよ、そんなに。俺ライドってそんなに思い入れは無いって最近気付いた。好きだけど、ローゼズとかプライマルと比べたら。
Y
わかる。沖野くんのセレクションって独特のラインだよね。
O
多分、あまりマニアックなものは好きじゃないし。
Y
もちろん普通に、メリー・チェインやマイブラみたいな大きなカテゴリーでは同じだけど、好きなアルバムが人と違うよね。スペースメン・スリーとかは好きでしょ?
O
すごい好き。
Y
そうだよね。そこの感覚が外人っぽいんだよね。日本人だとそこいかないだろうっていう所にいくよね。俺は典型的な日本人感覚でいくから不思議な感じするけどね。
 ジョンとポールはどっちが好き?
O
うーん、同じくらい。同じくらいの感じじゃない?俺の曲って。
Y
沖野くんはジョンのタイプだと思うけど、曲作りの上ではポール的な事も普通にやるからね。
O
そうそう。ものすごいポップ職人的な面もあるから。でもポップスはやりたくない、絶対。
Y
それはロックンロールが好きだからでしょ?
O
うん。でもソウルは好きだから、ソウル・ミュージックってポップスとつながるよね。あれを日本語に解釈してって。それは、、まあやって失敗したのもあるけど、でもオレのやる事じゃなかった。まあダサいけどロックにはこだわってるんだろうな、いわゆる日本人の言うロックじゃないけど。
Y
スペースメン・スリーの格好良さを、ポーズじゃなくて本当に理解してる感じはオレもわかる。ただ、ああいうたたずまいを愛してしまう感じは日本ではホントに伝わんないんだよね。
O
伝わんないね。でも例えばジェイソンなんて、ポップな曲も作るじゃん。ビーチ・ボーイズみたいな、ああいう感覚というか。
そういう事やる日本人いないよね。すごくポップ職人になっちゃうか、もっと極端にアバンギャルドだったり、ノイズの方いっちゃったり。そういうバランスの人が未だにいないよね。そこを評価してくれる人があんまりいないし。
Y
ファッション的なポーズでああいう見せ方する人は多かったけど、長続きしない。でもソニック・ブームもジェイソンもそれでずっとやってるからね。
O
だから未だに難しいとすごく思ってる、日本は。だけどすごくポップなメロディーも作れるから今回良いバランスだとは思ってるんだけどな。
Y
良いバランスだと思うよ。それは今までの沖野くんの音楽を知ってると尚更。でも今回は知らない人にも届けたいよね。
O
与田さんはキリキリヴィラの若いバンド達と接していてどんな感じ?
Y
25年前の俺たちと一緒。どこのレーベルの何が出て、あれがいいね、みたいなことばっかり話してる。
O
自分達の立場に対しては?状況に対しては?
Y
そこがはっきり違うんだよね。自分達のやりたい音楽をやるから、逆に月~金は仕事する。週末で自分の時間を作って、好きな音楽をやる。俺たちは時代的にもまだ音楽で何かできるかも、要するに売れたら、みたいな夢はあったけど、今の子達はそういう事考えてない。そこが多分一番違う。だけど自分達のやれる範囲内でやるから、好きな事をやめないで済むっていう風に思ってるんだよね。
O
冷静な感じするよね。
Y
そう、すごい冷静。でもそれは正しい冷静さっていうか、計算高いってことではないよ。良いことだと思う。
O
すごいね。やっぱ俺勘違いはしてたもん。
Y
いやいや、しょうがないよ。逆にいえば夢見ていたとも言えると思う。
O
こう言っちゃ悪いけど、周りも悪かったと思う。わりと何でもやっていいよ、みたいな感じあったじゃん。 俺が反省してるのは、自分の才能を過信しすぎてた。
Y
それなら俺だって「ラブマリーン」で日本のロックシーン全部ひっくり返ると思ったからね。それくらいすごいと思った。
O
でもインディー・チャートで1位になったよね。その前はXとかたまとかだったわけで。いきなりあれで変わったんだよ日本のインディー。
過小評価されてると思う。イカ天、ホコ天、ビジュアル系、関係なしに年間チャートで1位だし。
けど、その後は伸びなかったことに落ち込んだし、かなり反省した。だから昔の自分は好きじゃないよ。
Y
まあ俺もそうとうひどかったから、人のことは言えないけど。でも無軌道な若者が夢見て挫折するっていう物語としてはちょうど良かったのかな。本当に真剣だったのは事実だし。
O
だから俺全然うまくいかなかったけど、そういう方がおもしろい人生というか。
Y
あんなに楽しかったことないもん。
O
そうだね、で今もこうやってアルバム出せるなんてこんな幸せな事ない。ホント、しかも自分で妥協してないしすっきりしてるんだよ。いいわけも何にもないし。
次が楽しみ。この15年整理できてやっと次に進める、っていうね。
Y
でもここまで来たら、今回のアルバムが出ることによって、これまで沖野くんがやってきたことをちゃんと俯瞰して見るきっかけになると思うんだよね。これまでの意味は何だったのかって事を感じてくれる人が戻ってきたり、出てくると思う。そういう意味ではいいきっかけになるアルバムだし、ヴィーナス・ペーターのファンが聴いても良いと思えるし、ヴィーナス・ペーターを知らなかった人も入ってくることが出来るアルバムだと思うんだ。
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